
ご挨拶
このたび、2025年9月1日付で大学院医歯学総合研究科 血液・生体システム解析学分野の教授に着任いたしました村山嘉延と申します。私は大阪大学基礎工学部生物工学科を卒業後、同大学院にて電気生理学を専攻し、博士前期課程を修了しました。その後、医療工学の分野で先駆的な取り組みが進みつつあった日本大学工学部に助手として着任し、研究と教育の道を歩み始めました。着任当時、福島県では医工連携事業「ふくしま次世代医療産業集積プロジェクト」が始動した時期にあり、これと歩調を合わせるように、日本大学工学部には国内で初めてとなる本格的な動物実験施設が整備されました。私はその黎明期から医工連携および産学官連携の基盤づくり携わり、学際的研究が持つ可能性と力強さを肌で感じる貴重な経験を重ねてまいりました。同大学において、助手、専任講師、准教授、教授と務める傍ら、米国スタンフォード大学医学部との共同研究を通して博士号を取得(日本大学)し、さらにスウェーデン・ルーレオ工科大学での博士研究員としての研究活動、米国ジョージア工科大学への留学を経験いたしました。海外における医工学の急速な発展を目の当たりにする中で、日本の医工学研究の未来への期待とともに、強い危機感も抱くようになりました。そのような折、東京科学大学の一員として迎え入れていただき、コンバージョン・サイエンスの原動力として、医工融合に向けた新たな挑戦に身を捧じられることを大きな喜びとしております。
私の専門とする生殖医療領域における医工学は、卵子という“生命の始まり”をめぐる神秘を探究する基礎研究が、そのまま臨床へと直結するユニークで魅力的な学問領域です。比較的歴史の浅い医学領域でもあることから、分野間の垣根を意識しない東京科学大学の土壌は、この領域の未来を切り拓く上で大きな力になると確信しています。一方、生殖補助医療を担う胚培養士の多くが臨床検査技師であると報告されています。生体検査科学において生殖工学は重要な専門領域であると同時に、「生命とは何か」という根源的な問いに向き合うための、豊かな研究テーマを提供する学問領域でもあります。「生きている」生体は無機物とは明らかに異なる理(ことわり)に従っており、神秘的にさえ感じられる生命の活動を十分に把握するためには、新しい計測手法の開発とともに、未知の情報を解析する技術を必要とします。このように、私は「生命の神秘を探究し医工学の未来を拓く」をモットーに、教育と研究を展開してまいります。
いま、臨床検査技師の仕事は大きな変革期を迎えています。医療DXとAIを活用した検査機器により病院内での検査自動化が進むとともに、ウェアラブル機器やクラウドを利用したPHR(パーソナルヘルスレコード)の臨床利用、さらには遠隔診断など、最先端技術に柔軟に対応できる能力が一層求められています。臨床検査技師は、まさに医療における「五感」として、患者様の体と検体に真っ先に触れ、「生きている」状態を調べるエキスパートであり、人工知能やロボットには代替できない観察眼と判断力が必要とされます。特に大学院教育で私が重視していることは、生涯を通して北極星のように輝き「面白い」「もっと知りたい」と思い続けさせてくれる"種"を授けることです。生命の神秘に触れ、その奥深さに心を奪われる体験を一度でも得られれば、生命への畏敬の念が自然と芽生えます。その敬意こそが、未来の人々の健康と幸せを思い描きながら研究する品格を育ててくれると実感しています。
今後とも、皆様のご指導とご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。