
ご挨拶
この度、2022年7月1日付で、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科政策科学分野教授を拝命しました。
我が国の医療は、国民皆保険制度を基盤としており、医療の質と医療政策とは密接不可分の関係にあります。今後、少子高齢化、財政のひっ迫、ICTを含めた医療技術の進歩、さらには大規模健康危機事案の発生などの外部環境の急速の変化が見込まれる中、本分野の担う、医療と政策とを学術的につなぐ役割は、その重要性を増すものと認識しています。さらに、医学の進歩により疾患の発症前からのアプローチも現実のものとなっており、ヘルスケアという視点での制度的議論も不可欠な状況となっています。
私は、これまでのキャリアを、医療行政を専門的な立場から担う厚生労働省医系技官として歩んできました。とりわけ、第3期がん研究10か年戦略の策定、小児がん拠点病院制度の創設、日本医療研究開発機構の設立、厚生労働省のゲノム医療戦略やAI開発戦略の策定や診療報酬における医療技術評価および医薬品等の費用対効果評価制度など、先端技術の開発とその医療導入の促進に深く関わってきました。
こうした中で、医療やヘルスケア領域への先端技術の導入を促すためには、行政における仕組み(制度)づくりが必要だと感じてきました。ただ、こうしたサービスは既存の枠組みを前提としていることに加え、命や健康に関わる事柄にビジネスが関わることへの社会的懸念などから、行政のみで新しい仕組みをつくることは容易ではありません。そこには、現場と行政の双方を理解する”医療政策人材“が不可欠で、こうした人材が現場において試行錯誤を重ね、行政・政治、社会との対話を通じて信頼を得、制度を構築していくことが求められます。
今回、国全体で新型コロナを経験し、医療等への先端技術導入は、政府全体の最重要課題と位置づけられました。ICTの本格活用や働き方改革を通じた生産性の向上、リアルワールドデータを用いた研究開発の推進、革新的技術による疾患予防等の各種政策課題に対し、工程表を作成し、具体的に取り組む機運が高まっています。
本分野においては、国の政策動向と歩調を合わせながら、企業等と連携し、その実践、評価、政策提言というサイクルを構築し、“ビジネスとしても成り立つ具体的な政策提言”を積極的に行っていきたいと考えています。
また、本分野が中心的な役割を果たしてきた医療管理政策学(MMA)コース(修士課程)の運営にもより一層尽力し、我が国の将来にとって必要不可欠な“医療政策人材”を社会に提供するとともに、卒業生も交えたネットワークの構築に取り組んでまいります。
厚生労働省をはじめとする関係機関との連携を密にし、学内外の皆様からご指導を賜りながら、本学が掲げる「世代を超えた地球・人類の『トータル・ヘルスケア』の実現」に“政策”の観点から貢献していきたいと考えております。何卒ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。