神経炎症反応において中心的役割を果たしているのはミクログリアです。ミクログリアは脳の傷害、感染や種々疾患状態において活性化し、様々な細胞傷害性因子の放出や、単球、リンパ球の細胞内浸潤を促進することにより脳内に侵入した異物や死細胞の除去、蓄積した不要物の分解処理を行っています。一方で、ミクログリアの活性化が慢性化すると種々の神経疾患の病態生理に直接関与するようになります。ミクログリアは種々の因子により活性化されるがその活性化状態は同じではなく質的に異なると考えられます。当教室では種々疾患状態におけるミクログリアの活性化状態の違いと相同性を解析することによりミクログリアの活性化をコントロールする手段を見出し種々疾患治療に役立てることを目指しています。具体的には、神経因性疼痛、多発性硬化症、Parkinson病、Alzheimer病、Huntington病モデルをマウスに作製し、これらマウスにおけるミクログリア活性化の「質」の違いに関し、遺伝子・蛋白質発現変化、放出されるサイトカイン、ケモカイン、神経栄養因子などの違い等を指標にして比較し、種々疾患に共通な因子、個々の疾患に特異的な因子を抽出します。そしてこれらの解析で得られてきた分子をコードする遺伝子を時期特異的、ミクログリア特異的に欠損できるトランスジェニックマウスを作製します。そしてこのマウスに種々疾患モデルを作製し、行動学的、形態学的、生化学的、薬理学的、電気生理学的に解析します。
2-1 がん幹細胞/がん細胞
本研究は1細胞からエネルギー代謝活性を測定する手法を開発し、がん幹細胞やがん細胞におけるエネルギー代謝活性を解析することで Warburg 効果で知られるがん特有のエネルギー代謝機構、特にがん幹細胞の幹細胞性維持機構とエネルギー代謝との関係や、がん幹細胞からがん細胞への変異とエネルギー代謝との関係を明らかにすることを目的とする。これにより、がん化のメカニズムが、エネルギー代謝の観点から明らかにされることが期待される。
2-2 神経変性疾患
種々の神経変性疾患において変性脱落する神経細胞は疾患特異的に異なる。また変性領域に集積する活性化したミクログリア、アストロサイトは病態に深く関与する。本研究は、神経細胞の死とエネルギー代謝との関係、ミクログリア、アストロサイトの活性化とエネルギー代謝との関係を明らかにすることを目的とする。これにより、神経変性疾患の病態が、関与する種々の細胞におけるエネルギー代謝の観点から明らかにされることが期待される。
これまで一般的に快情動と動機は中脳ドーパミンシグナルにより説明されると考えられてきたが、近年の研究により、中脳ドーパミンシグナルは実は快情動そのものには直接関与しておらず、単に動機の引き手として働いているのではないかと考えられるようになってきた。そこで本研究では、快情動およびそれに誘導される動機を担う神経回路の解剖学的・機能的全容の解明を目的に、摂食に伴って生じる快情動を指標にして解析を行う。摂食行動を引き起こすメカニズムには、大別して2種類ある。ひとつは、生命維持を目標とした、栄養学的恒常性維持機構であり、もうひとつは快情動が深く関与する報酬系の機構である。我々は後者の神経機構の解明を目指す。これにより、「おいしさ」を保ちつつ、健康を害するような過剰摂取を防ぐことを目的とした創薬や脳深部刺激治療の、新たな標的の発見につながる可能性が期待される。
Kondo, D., Saegusa, H., Yabe, R., Takasaki, I., Kurihara, T., Zong, S. and Tanabe, T. (2009) Peripheral-type benzodiazepine receptor antagonist is effective in relieving neuropathic pain in mice. J. Pharmacol. Sci. 110: 55-63.
Li, L., Saegusa, H. and Tanabe, T. (2009) Deficit of heat shock transcription factor 1- heat shock 70kDa protein 1A axis determines the cell death vulnerability in a model of spinocerebellar ataxia type 6. Genes to Cells 14: 1253-1269.
Sakurai, E., Kurihara, T., Kouchi, K., Saegusa, H., Zong, S. and Tanabe, T. (2009) Upregulation of casein kinase 1 epsilon in dorsal root ganglia and spinal cord after mouse spinal nerve injury contributes to neuropathic pain. Molecular Pain 5: 74.
Kurihara, T., Sakurai, E., Toyomoto, M., Kii, I., Kawamoto, D., Asada, T., Tanabe, T., Yoshimura, M., Hagiwara, M. and Miyata, A. (2014) Alleviation of behavioral hypersensitivity in mouse models of inflammatory pain with two structurally different casein kinase 1 (CK1) inhibitors. Molecular Pain 10: 17.
Saegusa, H. and Tanabe, T. (2014) N-type voltage-dependent Ca2+ channel in non-excitable microglial cells in mice is involved in the pathophysiology of neuropathic pain. Biochem. Biophys. Res. Commun. 450: 142-147.