令和3年1月8日
国立大学法人東京医科歯科大学
研究倫理に関する不適合事案について
本学を含む複数の研究機関で行われました多施設共同研究において、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の不適合事案が発生しました。
このことにより健康被害が発生していないことが確認できておりますが、研究協力者さまをはじめ、関係する方々にご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫びいたします。
本件について、外部有識者を含む調査委員会により調査のうえ、厚生労働大臣に報告し再発防止策を講じましたので以下のとおりご報告いたします。
記
1.対象となった研究について
事業名:戦略的イノベーション創造プログラム AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム(SIPAIH事業)
研究開発課題名:リキッドバイオプシーとAIを用いた低侵襲がん術後再発超早期診断システムの開発
2.概要
研究実施計画(研究題目:リキッドバイオプシーを用いた肝臓癌術後再発予測モデル開発研究)について、本学の医学部倫理審査委員会(以下、「倫理審査委員会」とする。)は、他の研究機関も含め一括審査のうえ2019年3月に承認しました。その後、倫理審査委員会から各研究機関へ審査結果通知書を発行しましたが、本学の担当教員から他の研究機関に当該書面が送付されておらず、各研究機関における研究実施の許可手続が行われていませんでした。しかし、一部の研究機関では正式な手続き完了前に研究を開始し、健常人から採血を行ったことが2019年6月に判明しました。さらに、本学からの記入要請に応じて当該研究機関から提出された倫理審査委託書等には、真正でない書類が含まれていたことも判明しました。これらのことは、研究倫理指針の規定に適合していないものであると考えられます。
当該事業には遺伝子解析にかかる研究が含まれることから、本学は研究事業の代表機関(以下、「事業代表機関」とする。)の依頼を受け、本学の担当教員が責任者となって本研究実施計画を倫理審査委員会に申請する立場にありました。上記機関による指針不適合事案の発生を未然に防げなかった本学側の要因としては、本学担当教員の倫理指針に関する理解不足と多施設共同研究の連絡体制が不十分であった点が考えられます。
3.事案発生への対応について
2019年6月に本事案が発覚したことを受け、本学より多施設共同研究機関に、研究を一時停止する文書を発出しました。その後、直ちに設置した学内調査委員会が同年8月に調査報告書を作成しました。さらに同年9月に組織した外部有識者を加えた調査委員会が、調査資料の検討や関係者へのヒアリング等、綿密な調査を行い、事業代表機関より2020年10月に厚生労働大臣宛てに報告書(以下「大臣報告書」)を提出しました。報告書について、事業代表機関と倫理審査を行った本学とでは、以下の点について見解が異なります。
・本学の研究者が、共同研究機関(T大学)の倫理審査委託書の作成を事業代表機関の研究責任者に依頼したことは事実ですが、このことが事業代表機関の研究責任者に「真正でない書類」の作成を誘発したとする報告内容は、客観的な根拠に基づくものではなく、事業代表機関の研究責任者の瑕疵を許容する理由とはなりません。社会通念上許されない「虚偽の書類」であったというのが、本学の見解です。
・本件事案が発覚した端緒は、真正でない書類に基づく倫理審査によって共同研究機関として承認された、T大学における健常者からの採血に関する適正性・妥当性に疑義(倫理審査で承認されたプロトコールからの逸脱疑義)が生じたことに発しています。大臣報告書では本学の倫理審査体制の不十分さを指摘していますが、これは本件事案を未然に防げなかった一因ではありますが、本質的な原因ではないというのが本学の見解です。
その上で、当該事案を生じせしめたことについては、本学にも一定の責任があることから大臣報告書の提出に同意いたしました。
4.本学における再発防止策について
(1)人を対象とする研究に関する倫理指針・規制遵守意識の徹底
全ての研究者に受講義務を課している研究倫理講習会を、3年に1度から毎年の受講義務とし、指針遵守を徹底します。
(2)人を対象とする研究に関する実施体制の適正性の確認
研究実施状況に関する種々の手続き(有害事象報告、定期報告、内容変更届の提出など)について、倫理審査委員会による監視体制をさらに強化します。
(3)多施設共同研究における倫理審査手続きの見直し
本学が主たる研究機関となる多施設共同研究の倫理審査については、事前審査による書類確認プロセスを複層化し、研究計画およびその実施体制が適正であることを事前に確認します。
(4)倫理審査支援体制の強化
上記の倫理審査支援体制の強化をはかるため、(3)で示したプロトコールの複数部門によるチェックや倫理審査委託機関の適格性の確認、さらには審査結果の通知などの必須と思われる事務連絡処理が実施されていることを確認します。
5.関係者の処分について
本学の関係諸規則に基づき、本事案における倫理審査の研究実施計画での研究責任者であった本学教員に、学長から文書による厳重注意を行いました。