血液悪性疾患に対する同種異系幹細胞移植後の皮膚移植片対宿主病や、ループスエリテマトーデスなど膠原病の皮疹、Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症といった重症薬疹、また扁平苔癬は、大きく皮膚自己免疫性疾患と考えられる。これらの皮膚炎では、炎症後に皮膚線維化による硬化を来すのも特徴である。病理組織学的には、表皮角化細胞死を特徴とする苔癬反応(interface dermatitis)が見られ、その後真皮線維化を起こしてくるが、その機構の解明は十分でなく、したがって特異的治療法も存在しない。
我々は、人工的な皮膚自己免疫性皮膚炎モデルである移植片対宿主病様皮膚粘膜疾患モデルマウスや同種異系骨髄移植誘導で惹起する移植片対宿主病モデルマウスを用い、この機構の解明に取り組んでいる。特に細胞傷害性CD8 T細胞はこの病態の中心的な役割を担っていること、表皮常在マクロファージであるランゲルハンス細胞はこの自己免疫反応を抑えていることを見出した。また、角化細胞死をキーワードに線維化が起こってくる機構も解明しており、これは膠原病の強皮症のような線維化疾患ともつながってくる。
これらの解析を通し、産学共同研究にて、病態を司る分子を治療標的とした創薬にも取り組んでいる。
皮膚筋炎は、小児から老人までに発症する膠原病(自己免疫疾患)の一つであり、炎症性筋疾患の一つでもある。筋炎に加え、間質性肺炎、皮膚炎を呈する。筋炎、皮膚筋炎患者血清より、いくつかの筋炎特異的自己抗体が同定されてきており、その皮膚症状を含めた臨床像や予後は、筋炎特異的自己抗体別に分類できることが分かってきており、我々も多くの臨床報告をしている。
一方、基礎研究に使用する自己免疫性筋炎モデルマウスは、筋炎特異抗原の免疫によって惹起するものがあり、実際の皮膚筋炎の自己免疫機構とは合致していない懸念があったことより、筋炎特異的自己抗体別サブグループ分類に応じた、筋炎や間質性肺炎の新規モデルマウス群を作製しており、この解析を通じて、サブグループ別の特異的治療法開発に結び付けることに取り組んでいる。
上述のように、皮膚筋炎の筋炎特異的自己抗体には、保険収載されたELISA検査が存在する抗Mi2b抗体、抗TIF1γ抗体、抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)、抗MDA5抗体以外に、抗SAE抗体、抗NXP2抗体、抗TIF1β抗体などがあり、現状では、我々の研究室で免疫沈降法ーウェスタンブロット法での検出法を確立して同定し、これらの抗体別の臨床研究を行っている。
さらに、これらの既知の筋炎特異的自己抗体のどれも検出されない皮膚筋炎症例もまだ存在するため、我々は、皮膚筋炎であることが確実な症例で既存の筋炎特異的自己抗体がすべて陰性である血清を多施設より集積し、破砕細胞免疫沈降法を用いた新規自己抗体の探索を行っている。
近年、皮膚科分野の癌である悪性黒色腫を皮切りに、抗programmed cell death-1(PD-1)抗体、抗programmed cell death lignad 1(PD-L1)抗体といった免疫チェックポイント阻害薬による癌免疫療法が盛んに行われている。PD-1や、そのライガンドであるPD-L1、PD-L2は、末梢トレランス機構を司っており、その阻害は癌免疫を強化するとともに、自己免疫疾患を惹起し、免疫関連副作用(immune-related adverse effects: irAEs) が臨床的な問題となってきた。我々は、irAE症例検体を用いた臨床研究と共に、独自のコンディショナルノックアウトマウス系を構築し、様々な炎症性疾患モデルマウスや癌モデルマウスを用いて、PD-1-PD-Ls機構がどの部分で癌免疫を強化し、その部分でirAEを引き起こしてくるのかを解明し、より効率的な癌免疫療法の開発とともに、いまだ対処法が確立されていないirAEの治療法の開発に結び付く研究に取り組んでいる。
最近、慢性アレルギー性炎症の成立における好塩基球の重要性が注目されている。当教室ではマウスの皮膚炎症モデルを用いて、好塩基球の皮膚浸潤におけるセレクチンの役割や好塩基球に由来するプロスタノイドやケモカインの炎症への関与につき検討を進めている。さらに各種のヒト皮膚疾患における好塩基球の存在意義について解析をおこなっている。また、好塩基球のIL4産生に亜鉛が関与するシグナル伝達の制御機構があることも明らかにした。
痒疹は頑固な痒みを伴う孤立性丘疹に特徴づけられる疾患である。しかしその発症機序は全く明らかにされていない。本研究室では痒疹の疫学・病理学的検討やマウスモデルの作成をおこない、病態解析と治療法の開発や評価を試みている。
発汗異常、とくに特発性局所多汗症や特発性後天性全身性無汗症は日常生活のクオリティに影響を与える疾患であるがその病因は全く解明されておらず標準的な治療指針も確立していない。当教室では発汗異常症の病態や標準的治療法を確立するための研究を行っており、特に特発性後天性全身性無汗症においては動物モデルを用いた数理的解析を進めその病態の解明について世界的にも研究をリーディングしている。また標準的治療法の確立に関しても原発性局所多汗症診療ガイドラインや特発性後天性全身性無汗症診療ガイドラインを策定することでわが国の発汗異常症の診療向上に大きく寄与している。令和元年からは厚生労働省の難治性疾患等政策研究事業「発汗異常を伴う稀少難治療性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究」も立ち上げ、多施設における多数例解析などを含めてわが国における発汗異常症の研究および診療を先導する中心的な役割を担っている。
血管肉腫は予後不良な疾患であり、根治が望める治療は確立されていない。原発巣の広範切除、電子線照射、IL-2療法やタキソイド系薬剤による化学療法などが試みられているがいまだ満足できる効果が得られていない。 当教室では臨床応用がなされつつある遺伝子治療:不活化センダイウイルスHVJエンベローブベクター(HVJ-E)を用いた治療研究に着手している。
蛋白抗原の経皮感作を基盤としておこる食物アレルギーという新しいアレルギー反応について、マウスモデルの作成とその機序の詳細な検討を行っている。さらにモデルマウスやヒトにおける経口免疫療法の有効性やその機序について解析している。
近年、悪性黒色腫はその発症メカニズムや免疫回避のメカニズムなどが急速に明らかになっており、新規の分子標的治療や免疫療法の開発が急速に進展している。当科においては悪性黒色腫の中でも本邦で発症率が高い掌蹠に生じる末端黒子型悪性黒色腫を中心として、主にマウスモデルを用いた研究により色素幹細胞から悪性黒色腫が発症するメカニズムについての解明を行い、その新たな知見を活かした新規の診断法や治療法の開発に取り組んでいる。
Saito A, Ichimura Y, Kubota N, Tanaka R,,, Okiyama N*. Interferon-γ-stimulated apoptotic keratinocytes promote sclerodermatous changes in chronic graft-versus-host disease. J Invest Dermatol. 141(6):1473-1481, 2021
Okiyama N*, Ichimura Y, Shobo M, et al. Immune response to dermatomyositis-specific autoantigen, transcriptional intermediary factor 1gamma can result in experimental myositis. Ann Rheum Dis. 80(9):1201-1208, 2021
Okiyama N*, et al. Distinct Histopathologic Patterns of Finger Eruptions in Dermatomyositis Based on Myositis-Specific Autoantibody Profiles. JAMA Dermatol. 155(9):1080-1082, 2019
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Inui K, Ugajin T*, Namiki T, Yokozeki H: Chronic prurigo: A retrospective study of 168 cases. J Dermatol 47(3):283-289, 2020
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Namiki T, Yaguchi T, Nakamura K, et al. NUAK2 Amplification Coupled with PTEN Deficiency Promotes Melanoma Development via CDK Activation. Cancer Res. 75(13):2708-15, 2015