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医学科・大学院医歯学総合研究科(医学系)

教授
准教授
助教
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分野HP

概要

研究・教育について

  • 謎に包まれた、行動を生み出す脳の仕組み
     私たちの研究室では、動物の行動発現を担う大脳の神経回路における情報処理の仕組みを、独自の電気生理学的・光遺伝学的手法を駆使して探っています。例えば、私たちが手を伸ばして物を掴(つか)むとき、いったい脳の中では何が起こっているのでしょうか? 実は、随意運動の発現を担うとされる大脳皮質の一次運動野の中でさえ、どのような神経細胞が、どのような信号をやり取りして、どうやって「運動指令」を形成するのか、まだほとんど解明されていないのです。ラットなどのげっ歯類は、長い指のついた手を意外にも器用に動かしてエサをしっかりと掴むことができます。つまり、げっ歯類の単純な脳にも、このような巧緻な前肢運動を発現する基本的な回路機能が備わっているはずなのです。
     そこで私たちは、ラットの前肢運動による行動を制御する大脳皮質や大脳基底核の神経回路の仕組みを明らかにすることを研究目標に掲げています。 ・・・そして、いつかは、脳の神経回路が動作するための「基本原理」を解明したいと願っています。
  • 研究目標 ~何を知りたいか~
     大脳皮質の感覚野や連合野や運動野では、興奮性の錐体細胞と抑制性の介在細胞が「皮質内回路」を形成しています。これらの脳領域は相互に連絡するとともに、海馬、線条体、黒質、視床などを介して、皮質間と皮質下の結合が複雑に組み合わさった「多領域間回路」を形成し、適切な行動の発現に大切な役割を担っています。
     20世紀中は、単一ユニット記録法をもちいて、行動に関連する脳内の単一の神経細胞の発火活動(ユニット)が活発に調べられました。ところが、この方法では記録細胞の細胞型や軸索結合を調べることは技術的に極めて困難でした。そこで私たちは、新しい実験技術を開発導入して、大脳皮質を中心とする神経回路がどのような作動原理に基づいて行動情報を形成するのかを探る研究を開始しました。
  • 研究手法 ~どうやって知るのか~
    1.オペラント学習課題
    従来、前肢でレバーを押すと報酬を得るオペラント学習課題を訓練するのには、数週間~数か月を要しました。私たちは、レバーとスパウト(飲み口)を合一化した「スパウトレバー」を考案し、わずか数日でラットに前肢の運動課題を学習させることに成功しました。この行動実験系を活用すると、行動を発現するラットを効率よく生理学的実験に供給できます。また、実験目的に応じて、Go/No-go弁別課題や報酬に基づく行動選択課題などに幅広く応用することもできます。
    2.傍細胞(ジャクスタセルラー)記録
    単一神経細胞の発火活動を記録し、その記録細胞の形態を可視化できる画期的な実験技術です。記録細胞を可視化すると、細胞型を同定し、細胞体の存在部位を決め、軸索結合を追い、各種分子マーカーの発現を調べることができます。私たちは、世界に先駆けて、行動している動物を対象とした傍細胞記録実験に挑戦し、ラットの運動野細胞や線条体細胞からの傍細胞記録に成功しました。
    3.マルチニューロン(+局所フィールド電位)記録
    シリコンプローブ(多点電極)を介して、多数の神経細胞の発火活動を一挙に記録することができる実験技術です。各電極から得られた信号は、スパイク・ソーティングという解析技術をもちいて、個々の神経細胞由来の発火活動(ユニット)に分離していきます。スパイク・ソーティングには、共同研究者が開発したEToSという高精度のソフトウェアを使用しています。
     マルチニューロン記録では、記録細胞の可視化同定はできませんが、大脳皮質ではスパイク形状によりRS細胞(主に興奮性細胞)とFS細胞(主に抑制性細胞)に分類できます。この方法によって、行動の発現に関連するRS細胞やFS細胞の間にみられる同期的発火を解析することができます。  マルチニューロン記録では、記録細胞の可視化同定はできませんが、大脳皮質ではスパイク形状によりRS細胞(主に興奮性細胞)とFS細胞(主に抑制性細胞)に分類できます。この方法によって、行動の発現に関連するRS細胞やFS細胞の間にみられる同期的発火を解析することができます。
     マルチニューロン記録では、局所フィールド電位(LFP)も同時に記録できます。行動発現に関連して大脳皮質や海馬にみられるガンマ波やリップル波などの同期的集団活動も調べています。
    4.光遺伝学(オプトジェネティクス)
    神経回路の情報処理の仕組みを理解するためには、そこを流れる信号を光遺伝学的に操作して、神経活動の「因果性」を示すことが有用です。私たちは、チャネルロドプシン2(青色光で膜電位が脱分極する)を発現するトランスジェニック・ラットや経路特異的発現ウイルスベクターを使った実験を実施しています。
     さらに、多領域間のスパイク信号を探るために、マルチニューロン記録と光遺伝学を組み合わせて、スパイク・コリジョン試験を並行的に実施し、記録細胞の軸索投射先を効率よく同定する新技術「マルチリンク法」の共同開発にも取り組んでいます。
    5.理論的解析・シミュレーション・モデル化
    酒井裕教授(玉川大学・神経計算論)などの協力を得て、マルチニューロン記録データの高度かつ効率的な理論的解析を進めています。シミュレーションやモデル化の手法も取り入れて、「実験と理論の融合」の具現化を目指しています。
  • 研究手法 ~どうやって知るのか~
     私たちは、脳の本質的な原理を理解するために、ラットの行動発現を担う脳回路の仕組みを研究対象として取り上げています。これまで多くの脳科学研究は、脳活動を「平均」することにより、脳機能の「局在性」をあぶり出す方向に進んできました。しかし、脳活動は時々刻々とダイナミックに変化していますし、単一領域ごとではなく多領域ネットワーク全体が情報処理を担っているのは今や疑いありません。このような「静から動へ」「点から線へ」という視点を大切にして、研究手法を洗練し、学際分野に進出し、失敗を恐れずに、真のオリジナリティを追究したいと考えています。
  • 教育活動の方針について
     当分野では、脳回路の基本原理の解明を目指す研究活動を通じて、次世代の優秀な研究者(ポスドク研究員・大学院生など)を応援します。基本方針として、将来像に合せた研究テーマの設定、実験セットアップは1台につき1~2名まで、実験技術を一通り習得するカリキュラム、知識よりも論理力を育むディスカッション、研究室内外の効果的な共同研究、を念頭に置いて指導しています。
     医学部生の教育では、一般生理学を中心とする「生理学」の授業と実習を受け持っています。また、プロジェクトセメスター、研究実践プログラム、研究者養成コース、MD-PhDコース、歯学科研究実習における学生に対する研究指導も行い、早期からの基礎研究者の育成を目指しています。身体の機能を統合的に理解する生理学は、医師となる基盤を築くためにも極めて大切な学問です。ぜひ自主的かつ積極的に当分野の活動に参加して生理学の醍醐味を味わってください。

業績

最新の研究業績は、Researchmapをご覧ください。

主要業績(着任前含む)

Hamada S et al. (2021) An engineered channelrhodopsin optimized for axon terminal activation and circuit mapping. Comm Biol 4(1): 461.

Kawabata M et al. (2020) A spike analysis method for characterizing neurons based on phase locking and scaling to the interval between two behavioral events. J Neurophysiol 124(6): 1923-1941.

Nonomura S et al. (2018) Monitoring and updating of action selection for goal-directed behavior through the striatal direct and indirect pathways. Neuron 99(6): 1302-1314.

Isomura Y et al. (2009) Microcircuitry coordination of cortical motor information in self-initiation of voluntary movements. Nat Neurosci 12(12): 1586-1593.

Isomura Y et al. (2006) Integration and segregation of activity in entorhinal-hippocampal subregions by neocortical slow oscillations. Neuron 52(5): 871-882.